ヨヨギのクラブ遊びにつきあって朝帰りしたせいもあって、夕方前にムックリと起きた俺はコンビニで弁当とマンガ雑誌を数冊買ってきて、家でノンビリとしていた。

夜11時を過ぎた頃に電話が鳴った。

「おう、わしじゃ。とんでもないことになったんじゃい。」

電話口のヨヨギは息も切れ切れの模様だった。

「どしたん?金貰えなかったの?つうかバイト終わったん?早くない?」

「それどころじゃないんじゃい!ケーサツが店まで来てのう!危うくもってかれそうになったからオーナー呼んで来ますいうて、走って逃げて来たんじゃい!」

裏ビデオ屋が違法だということは判っていたが、あまりにも歌舞伎町のあちらこちらで路面店の裏ビデオ屋があるもんだから、パチンコ屋が隣りで換金しているのと同じように”本当は駄目なんだけど見て見ぬ振りしておきますね”みたいな業種なんじゃないか?と勝手に勘違いしていた。

なので、いきなり営業中に警察官が摘発しに来るなんていうのは想像していなかったことだ。

実を言うと、いわゆるAVやエロ本や大人のおもちゃなんかを専門に扱う店舗っていうのは、警察への届け出をしなくては営業できない。

さらに言えばそうした届け出をきちんとしているアダルトショップやレンタルビデオ店で扱えるAVは、ビデ倫に認められた規制の範疇の映像ソフトであり、性器丸出しの無修正の裏ビデオは扱ってはならない。

裏ビデオを販売するということは”猥褻図画販売”というれっきとした犯罪行為なのだ。

当時の歌舞伎町の裏ビデオ屋は、摘発を免れるためにお店には商品を置かず、大丈夫そうな客かどうかを見極めたあとに、注文されてから別のところから裏ビデオを持って来るという方法をとっていた。

ところがこのエビスの店ではマスターテープから複製するのも店内で行っており、そこでダビングした商品をそのまま店頭に置いてあるというありえない脇の甘さだった。

脇が甘いというよりはそうするより方法がないというくらい、エビスは金に忙しすぎて手段を選ぶ余裕のない”弱者”だった。

ちなみに販売を目的とした裏ビデオの複製行為は、”猥褻図画製造”といって実は販売以上に罪が重く、二十日以上勾留されきっちり起訴された上に弁当(執行猶予)もつく。

クスリや葉っぱも、「持ってる奴より売った奴」「売った奴より作ってる奴」の方が罪が重いと言うが、それと同じ様な理屈なのだろう。

つまりこの店の経営者がもし摘発されたら”猥褻図画販売並びに製造”の長として逮捕されるわけだ。

基本的にこういった違反店の場合「お店にいた人間が現行犯逮捕」され「物件の名義人が出頭して逮捕」というのがよくある流れである。

もしも運悪くオダが居ない時間帯に警察が見回りにやって来た場合、俺もヨヨギも「猥褻図画製造及び販売」の現行犯となる。

ヨヨギの電話でことの重大さを理解した俺は、肝を冷すと同時にこう思った。

(エビスが逮捕されたらバイト代貰えないどころか、店が潰れちゃうな……)

「オーナーがつかまらんけ、これから”どことなく”行って伝えたらお前んち寄るわ」

そう言い終わるか否かのタイミングでガチャンと電話が切れた。

そしてすぐにポケベルが鳴った。

(8)に続く