中井駅の前に到着すると、すでにサークル勧誘が目的の大学生たちが集まっていた。

「どいつもこいつも大した事なさそうじゃの?ほんじゃ陣地取るで」

爽やかなカジュアルルックに身を包んだ短髪の大学生達と、ロンゲ×2+坊主を含めた自分たち4人組を比べて、俺が親なら娘が彼氏だと言って連れて来て欲しいのは絶対向こうだなと思いながら五の坂の方へ歩いていった。

「どうも〜!インカレのレジャーサークルです〜!」

道行く学生にコピーしたビラを渡す。ほとんどが親子連れなので、俺らの様な胡散臭いルックスの学生には見向きもしてくれなかった。というかそもそもインカレの定義もよくわからない。

入学式が始まる少し前になると通りにはオンナのオの字もないくらい、男だらけになってしまった。

「キッチャテン行くか!作戦会議やるで」

ここにいても勿論する事もないので、駅前のカフェに移動した。

「思ったよりおとなしそうなのが多かったのう」

煙草を吸いながらヨヨギが漏らす。

「ていうかほとんど親子連れだったじゃん?」

「お前アホか?そんなん一切合切無視じゃい!ピンで来とるオンナを狙うんじゃい!親が俺らみたいなの相手してくれるわけなかろうが?」

かろうじて客観的視点は持ち合わせているようだ。

「ピンで来とった中でカワエエ子目星つけといたわ」

この中で唯一サークル経験者のホソダが口を開く。ホソダはメンバー唯一のサークル経験者で現役の慶応生。大規模な学生パーティーを仕切ったりもしているちょっとした有名人だ。

「さすがホソダじゃ!じゃあ入学式が終わる頃に二カ所に別れて勧誘するで!お前はホソダにくっついて指示されたオンナにアポな」

要するに母親と一緒じゃない、派手めなオンナを中心に勧誘するのが方針のようだ。軟派サークルな訳だから当然と言えば当然だ。

ビラとアンケート用紙と写るんですを手にさっきの通りにホソダと一緒に向かった。

アンケート用紙には「サークルに入る予定はありますか?」「学生のうちに経験したい事はありますか?」「一人暮らしかどうか?」などの質問が書いてあった。

「要するにフットワーク軽そうな女の子にアンケート書いてもらって、最後に名前と連絡先を書かせるまでが今日の目的な」

「このカメラは?」

「この人数で100人単位の管理は無理だろ?一人あたり10人くらいが限度。だからあとで連絡入れる時にカワイイ子優先で取捨選択出るじゃろ?可愛い子いたら勝手に男も集まって来る」

ホソダの説明はいちいちわかりやすい。

ホソダの指示に従って声をかけると、早速一人目から引っかかった。

「こんにちは〜!今新入生の方限定でアンケートに答えてもらってますー」

ホソダに習った通りのテキストで勧誘を進める。「サークルの勧誘」ではなく「アンケート」ってところと「新入生限定」ってのががミソらしい。

「もし東京の学生の間で流行ってる情報とかお店とか知りたかったら名前と連絡先書いてね〜!」

と言うと9割以上がアンケート用紙に本名と電話番号を書いてくれた。今ならとてもじゃないけど考えられないくらい簡単に個人情報が集まった。

(4)に続く