AV救済法、取りこぼされた性風俗 「買われた性の痛み」聞いて
宇多川はるか 
2022/7/20

 アダルトビデオ(AV)の出演被害を防ぐため、議員立法で成立した「AV出演被害防止・救済法」。急ピッチで進んだ法整備から、取りこぼされた「当事者」たちの声を知ってほしい。AVの定義に「性行為」が明示された新法に、AV出演者だけでなく、性的サービスを行う風俗店に勤務経験がある女性たちの一部は懸念を示す。「お金で『合意』の性行為をした私たちの痛みを、なかったことにしないでほしい」。そう訴えるカナさん(仮名、20代)らに話を聞いた。【宇多川はるか】


「特別な存在ではない」

 「新法を進めようとしていた国会議員たちは、性風俗や水商売、AV女優が、すごく社会と離れた『かわいそうな人』で、遠い世界の人たちのように見ている気がする。そんなステレオタイプの見方ばかりで、自分のこととして見てくれているのでしょうか」

 23歳で風俗に入ったというカナさんはそう投げかける。キャバクラでの接客から始まり「どんどん風俗の深みにはまった」という経験があるからだ。だが、「私が決して特別な存在とは思わない」と訴える。

 18歳で専門学校を出て、フリーランスで仕事をしている時、営業先からのセクハラに苦しんだ。仕事を辞めたが、生活費は稼がなければならない。頼れる実家はなかった。

 キャバクラを選んだのは、高収入であることに加えて、「これだけの求人があるのだから、心配するような危ない仕事ではないだろう。働いている女性がたくさんいるのだから、私にもできるのではないか」と考えたからだ。カナさんにとって、福祉につながることよりも、風俗の間口の方が広かった。

 派遣のキャバクラに登録したら、ランジェリーパブへの派遣の仕事が決まった。体を触る「おさわり禁止」とルールがあった。だが、実際は違った。「実際は客から触られました。ボーイ(店のスタッフ)に助けを求めても、『うまくやりなさい』という感じで、守ってくれるわけではありませんでした」。カナさんは「そうやって、どんどん自分の中にある境界を壊されていった」と振り返る。


「AVの定義」が残した課題は

 次第に、一人で客の家に派遣される「デリバリーヘルス」の仕事も受けるようになった。店側は「性交禁止」などのルールを客に説明はしていた。だが、実際は違った。「金額以上にサービスしろ」と、「本番行為」を迫られた経験は一度や二度ではない。ルールを逸脱した要求は後を絶たなかったという。

 「客を怒らせないようにしなくちゃならない。裸で、圧倒的に肉体的にも強い立場の男に殴られたら、何もできないじゃないですか」


 「最悪、殺されるかもしれない」という恐怖の中で、「仕事」を続けたという。

 カナさんには、忘れられない言葉がある。利用料金が安い、いわゆる「激安デリバリーヘルス店」に勤務していたとき、客にこう言われた。

 「どんなひどい子が来るかと思ったけど普通にかわいいね。コスパ(費用対効果)の面ですごくうれしい。ずっとこの店にいてね」

 女性の性が値踏みされ、買われる現場――。カナさんは問いかける。「グロテスクな光景だと思いませんか?」

 風俗から離れたいまでも、性行為で体に感じた痛みや、自分の泣き叫ぶ声が幻聴のように頭によみがえり、時々意識が遠くなってしまうことがあるという。「自分を幽霊のように感じることもある」

 AV新法は、AVの定義に「性交を含む性行為」が明示された。一部の支援者や弁護士は、AVの定義に「性交」を含む性行為を明示したことが、金銭を伴う性交を追認しないか危惧している。

 カナさんは、AV出演被害を、自らの被害と、風俗界を重ね合わせて訴える。

 「性産業という巨大な市場の中で『商品』として売り出され、消費されてきた女性の心や体、人権はあまりにも軽視されてきたと思います。お金で『合意』の性交をした私たちの痛みを、なかったことにしないでほしい」

 5月下旬に新宿で開かれたAV新法反対の集会では、「性売買経験当事者」として他の女性たちと共に、「『性交』を金銭取引の対象とする新法に反対する」との声明を出した。


AV出演被害防止・救済法のポイント

 もう一人、マミコさん(仮名、20代)は、10代後半で風俗で働き出したが、支援者と出会ったことで、「性をお金で買われて支配されること自体が、人間の尊厳を傷つける行為で、暴力だと気づきました」と語る。

 ただ、自身の経験を「被害」と自覚するのには数年間が必要だった。それだけに、AV新法が「AV公表後、無条件に契約解除ができるのは原則1年間」としたことに「短すぎる」と訴える。

 新法は施行後2年以内の「見直し検討」を規定している。国は、社会は、私たちは今後、どれだけの当事者の声を拾えるかが問われる。
毎日新聞