300万円の「シャンパンタワー」からわずか2ヶ月で…歌舞伎町のホストに狂った女性たちの「衝撃の告白」
2022/8/1

 2019年5月。新宿区のマンションの一室で、ガールズバーの元店長・高岡由佳(当時21)が、歌舞伎町のホスト・琉月さん(当時20)の就寝中に腹部をメッタ刺しにし、重傷を負わせるという事件が起きた。

 彼女が逮捕後に供述した「好きで仕方なかったから刺した」という動機は大きな話題を呼び、当時のSNSには〈彼女の気持ちがわかる〉〈もしかしたら私が“彼女”だったかもしれない〉と、事件の加害者であるにも関わらず、高岡に対し過度なまでのシンパシーを表明する女性たちの書き込みが溢れた。

 なぜ彼女たちは「殺人未遂」という凶行に及んだ高岡に共感を寄せたのだろうか。

 書き込みを辿っていくと、その多くには「#ホス狂」「#ホス狂い」とのハッシュタグがつけられている。

 「ホス狂い」とは、文字通り「ホスト」に「狂い」、自ら稼いだ大金の大半を費やすこと。彼女らは高岡への共感を書き綴るとともに、ホストクラブで10万円は下らない高価な酒のボトルを開ける様子や、平均費用は数百万円とされる「シャンパンタワー」の写真を上げたりと豪遊する様子を次々にアップしている。

 彼女たちの収入源のほとんどはパパ活や風俗などいわゆる「夜の仕事」だ。身を粉にして稼いだ大金をすべてホストに捧げる彼女たちはどこか誇らしげに「ホス狂い」を自称する。ホス狂いたちは何を求めて夜な夜なホストクラブに通うのか。事件記者として強く興味を引かれた筆者は、歌舞伎町に居を移し、彼女たちへの直撃取材を試みた。

 「どうせ住むなら歌舞伎町のど真ん中にしよう」と、「アパホテル 歌舞伎町セントラルタワー」へと居を決めたのは2021年5月のことだった。しかし、約一か月分の滞在費を振り込んだ6時間後。同ホテルから14歳の女子中学生と18歳の男子専門学校生が「飛び降り心中」をするという、痛ましい事件が起きた。まさか自分がニュースの現場で暮らすこととなるとは、と思いながらも、チェックインのために同ホテルに行くと、すでに2人が飛び降りた駐車場前の現場の規制線は撤去されていた。

 ホテル前の「トー横広場」では平日の昼日中でありながら、ホームレス風男性を含む、複数の男女の「トー横シニア」たち酒を酌み交わしている。ホテルのエントランスでは、せわしなく客が行き来しており、事件から3日も経過していないにもかかわらず、まるで「未成年同士の飛び降り」という出来事などなかったかのような「日常の光景」が繰り広げられていた。

 事件のほとぼりも冷めやらぬ数日後、今度はまた別のホテルで「飛び降り事件」が起きた。その時は警察の説得が講じて、未遂ですんだが、短期間に同じ町内で多発する「自殺」には度肝を抜かれた。

 歌舞伎町で生活するうちに出会った「人妻ホス狂い」を自称し、週5日ホストクラブに通う40代の女性は「危ないから、巻き込まれないように歌舞伎町では上を見て歩くようにしている」と話した。つまりは、それほどこの街では「自殺」が日常化しているということだ。そういえば「ホスト刺殺未遂」事件を起こした高岡も、初公判の際、犯行前に自殺をほのめかす言動を繰り返していたことが明かされていた。

 現在10万人以上のチャンネル登録者を誇る人気ユーチューバーで「歌舞伎町の案内人」も務める「ホス狂い あおい」さん(26)は、この街で自殺が多発する背景をこう解説する。

 「歌舞伎町の雑居ビルには鍵をかけていないところも多く、簡単に屋上まで上がれてしまうという物理的な理由も大きいと思いますが、一番は町全体に『共感』のムードが漂っていること。歌舞伎町に集まるのは心が優しいコが多いが故に、飛び降りたコに共感してしまうし、自分もまた、心のどこかで『私がここでこの世からいなくなったら、街にいる人にならその苦しさをわかってもらえるのでは? 』と期待してしまうんです」

逆ナンした彼氏に振られたあとに訪れた「運命の出会い」

 筆者が取材したねねさん(仮名・26)も、そういった女のコのひとりだった。

 2021年8月、記録的な猛暑が続く中、待ち合わせのカフェに約1時間ほど遅れて現れたねねさんは開口一番、「数日前に自殺未遂をしたばかりで…。だから、なかなかベッドから起きられなくて、ごめんなさい」と頭を下げる。

 ねねさんは身長170センチ。女優の川栄李奈を派手にしたような華やかな美女だ。彼女が初めて歌舞伎町に足を踏み入れたのは19歳の頃だ。当時はアパレルで働いていたというねねさんは、勤務後に、渋谷のクラブに遊びに繰り出すのがルーティンだった。ある日、「すごくタイプ」だという男性を逆ナンし、その日のうちに『お持ち帰り』された。

 「カレは昔、大阪のミナミでホストをしていたそうで、部屋にはホストのカタログみたいな雑誌があった。それをパラパラ見てたらカッコいいコが沢山載っていて、そこで初めてホストという存在を認識しました」(ねねさん・以下同)

 しかし「逆ナン」したカレとはほどなくして音信不通となる。交際していると思っていたのはねねさんだけで、カレにとっては遊びのひとりだったのだ。ムシャクシャしていた彼女は、ふとカレの部屋にあったホスト雑誌を思い出し、「かっこいい男の子とお酒を飲んで楽しみたい」と足をむけたのが、歌舞伎町だった。初めてのホストクラブへと入った彼女は、その日は指名をするほどのホストに出会うことはなかったが「楽しかった」という思い出は残ったという。

彼のために「シャンパンタワー」を建てたい…

 ねねさんが「運命の出会い」をしたのは、それから少し後のこと。当時勤めていたアパレルで、後輩が通うホストクラブに誘われた時のことだった。

 「その店には後輩が指名している“担当ホスト”がいて、付き合いで行ったんです。その時なんとなく指名したレオ君(仮名)という新人ホストと妙に気が合って、たまに店に行ってその後お互いの家に泊まったり一緒に過ごす関係になりました」

 レオ君とつかず離れずの関係を続ける中、ねねさんの思わぬ妊娠が発覚する。相手は、渋谷の「逆ナンのカレ」だ。レオ君は音信不通の「渋谷のカレ」の替りに彼女に献身的に尽くした。“彼氏”として病院にも付き添い、心身ともに傷ついた彼女のケアをしたという。

 彼女はそんなレオ君の献身に打たれ、彼のために「シャンパンタワー」を建てることを決意したのだ。シャンパンタワーはどんなに安いものでも税抜き150万円ほどと高価なもの。当然、アパレルの仕事だけでは賄えない。彼女は、ソープとデリヘルを掛け持ちして働き、出会ってから4か月でレオ君のために、「初めてのシャンパンタワー」をたてた。

 「その時はこんなに頑張れるんだって嬉しくて。来年は、もっと大きなタワーをしようね、と約束したんです」

 ねねさんは大きな目を潤ませながら「見てください」と私に、スマホの画面を向ける。

 そこにはおとぎの国のお姫様に扮したねねさんと、青いスーツに身を包んだレオ君が青と黄色に彩られた豪華なシャンパンタワーの前でほほ笑んでいる。2人にとって2回目となる、大小3基のタワーはおよそ300万円。従業員たちに囲まれ寄り添う様子は、さながら披露宴のようだ。

 「これが私の一番幸せな時でした――」

 だが、蜜月は長くは続かなかった。レオ君が他にも「本営(※女性客の本当の恋人のようにふるまう営業方法)」をかけていたことが発覚。怒り心頭に達したねねさんは、すべてを「ホストクラブ版5ちゃん」と称されるネット掲示板「ホスラブ」に晒し、2人の関係は破綻した。300万円のタワーから2か月後、もうねねさんはレオ君の店に行くことはなかった。
Yahoo!ニュース

記事後編は以下

月100万以上貢いだ男に“出禁”を言い渡され…歌舞伎町のホストに狂った女性たちの壮絶な末路

「ホス狂い」とは、文字通り「ホスト」に「狂い」、自ら稼いだ大金の大半を費やすこと。彼女たちの収入源のほとんどはパパ活や風俗などいわゆる「夜の仕事」だ。身を粉にして稼いだ大金をすべてホストに捧げる彼女たちはどこか誇らしげに「ホス狂い」を自称する。ホス狂いたちは何を求めて夜な夜なホストクラブに通うのか。事件記者として強く興味を引かれた筆者は、歌舞伎町に居を移し、彼女たちへの直撃取材を試みた。


「とにかく一番になりたかった」

レオ君の次に出会ったのは、歌舞伎町の老舗有名ホストクラブにつとめる紫陽君だ。紫陽君はねねさんよりかなり年上の30半ばだが、女優の橋本環奈に似たかわいらしい顔立ちにばっちりメイクを施しており、実年齢にはまず見えない。これまで年下としか付き合ってこなかった彼女にとって、経験豊かな有名店のベテランホストである紫陽君は新鮮に映り、あっという間に夢中になった。

「とにかくカレのお客さんの中で一番になりたかった」と語るねねさんは、紫陽君の店に月平均150万円以上を費やしたという。自身が忙しくて店に行けない時は友人を“代理”で店に送り込み、カレの売上げに貢献した。

それだけの出費があれば当然、ソープやデリでは追い付かず、パパ活にも手を広げた。見映えのいいねねさんは、現在「大人の関係あり」でも3万から5万円という相場で、平均2ケタを稼ぎ出す。しかしそんな彼女の“頑張り”は長くは続かなかった。

「気が付けば、私はカレに『こんなに頑張っているのに』と過度な見返りを求めるようになったんです」(ねねさん)


「気持ちはまだ変わっていません」

電話やラインで24時間繋がることを要求する、アポなしで家に押しかけるなどの迷惑行為を繰り返した彼女に、ついには紫陽君は「嫌いだ。もう店にも来るな」と絶縁宣言の上、「出禁」を言い渡した。月に3ケタ使う“上客”であったにも関わらずだ。

ねねさんは、あまりのショックに自室の浴場で自殺を図った。

「死ぬときは、自分が一番幸せだった時の映像を見て死のうと思った。だから、レオくんとのシャンパンタワーの動画を観ながら死のうと思って・・・・だけど結局、怖くなって自殺はできませんでした」

私の取材を受けてくれたのは、自殺未遂を測って1週間もたっていない頃だった。

「紫陽くんへの気持ちはまだ変わっていません。少し前、女の子が『好きで好きで仕方なかったから』と、ホストを刺しちゃった事件があったでしょう? 私の場合は相手を刺さずに、加害は自分に向かったわけだけど、彼女の気持ちはすごくよくわかる。

紫陽くんに最後の拒絶をされる前、私はアポなしでカレの家に押しかけて、ピンポンを押しまくったのですが、カレは私を完全に無視して、警察を呼びました。今思えば、それはカレの優しさだった。私は、どうしても、カレに嫌われることをしてしまうのだけれども、どこかで、誰かに止めてほしかったのだと思う。カレが私を拒絶せずに、私を部屋に迎え入れていたら、私は、カレを刺していたかもしれない。警察に連れていかれたからこそ、私は留まることができた。カレを刺さずに済んだんです。

私にとって、紫陽くんは、“人生最後”の本当の恋。カレにはハッキリと『嫌いだ』と言われてしまったけれど、それでも、時間がすぎれば、また、思い直してくれる時がくるんじゃないかって。その日まで、私は、カレと一緒の席に着くことはなく、店のレジに“接客してもらったつもりぶん”の金額を入金だけしにいきます。そのことについては、お店の人も、『わかった』といってくれました」

すさまじい自己犠牲精神である。そのために、ねねさんは、どれだけお客をとることになるのか。事実、彼女は、私に「カレに入金だけするため」に「前借りができてより稼げる店に移籍した」と話した。ねねさんの「幸せ」の背後には、「女性からお金を搾取するシステム」が確実に存在しているのだ。


「カレと完全復活しました!」

自殺未遂を経て、紫陽くんと決別したはずのねねさんから連絡が来たのは、取材から半月後のことだった。

彼女は元気だろうか、メンタルが弱そうだから、精神的にまた参ってはいないだろうか……と、考えていたところ、彼女から久々にLINEが届いたのだ。

文面には〈お元気ですか? カレと完全復活しました! つきましては、カレに本数をつけるため、ご招待でお店に来ていただけませんか? お金は全部、私が持ちます!〉とある。頭の中がクエスチョンマークで一杯になり、「どうしましたか?」と彼女に連絡すると「あれから、カレと復縁したんです! こうなったからにはカレをグループで、せめて2位にしたくて、毎日友達を呼んでいて、ついに120組になりました! 1週間であと60組よべば、グループで2位にはなれますから!」と、かなりのハイテンションの返信が来る。

彼女のLINEのタイムラインを見て見ると、「しゅきしゅきしゅき! ねねりん完全復活! あとは安定剤(※精神安定剤・抗不安剤のこと)が抜けるの待つだけ!」と大量のハートマークと薬のカプセルという、どこ禍々しい絵文字で近況が綴られている。

その後の紫陽くんとねねさんの関係は相変わらずだ。2人は自殺未遂からの店の出禁という、あれだけの派手な修羅場を繰り広げながら、まるでそれがなかったかのように、「復縁」している。彼女は、ソープやパパ活に加え、こうした「夜の職業」で働く女性向けに自作マニュアルの販売も始めたという。新規事業も含め、荒稼ぎをしては、売り上げを紫陽くんに注ぎ込んでいるのだ。


むき出しのお札を取り出し…

ねねさんは紫陽くんが席に着くと、私の取材に応えているときとは打って変わって、別人のように「甘えん坊」になる。さっきまで、理路整然と「夜のマニュアル販売」について語っていた同じ口で、「しゅきしゅき♡」と赤ちゃん言葉でささやく。

紫陽くんが席に着いて、ほどなくすると、ねねさんは、持っていたアジサイカラーの小さなバッグから、分厚い札束を取り出した。むき出しのお札を、私の目の前で「いち、に……」と紫陽くんと数えだし、金額を確認して、手渡す。おそらく、売掛金の入金なのだろう。しかし、むき出しの大金と、それが平然と渡される光景の異様さに、私は思わず面食らってしまった。

彼女はその後も自殺未遂と“復活”を繰り返し、第七波が蔓延するいまも紫陽くんの店に通っている。ねねさんの姿は、自分の喜怒哀楽も、自殺未遂もすべてを「舞台装置」として全身で歌舞伎町を楽しんでいるようにすら見えた。

「なぜ、そんなに辛い思いをしてまで歌舞伎町に通うのか」と尋ねると、彼女は少し考えた後、こう言うのだ。

「私は小さい頃から、目立ちたがり屋で、女優とか、声優とか、人から見られる仕事に就きたかった。形を変えても、人に見られたい、誰かにずっと、自分だけを見ていて欲しいという気持ちがあるんでしょうね。あとは、私は、自分のことを好きだという相手は好きになれないんです。自分が好きになる男性としか、付き合えない。でも、そうすると、結局いつも相手は、ホストなんですよね……」
宇都宮 直子ノンフィクションライター

現代ビジネス