国相手に戦う性風俗業者「『どこ調べなん?』という発言が多かった」コロナ給付金訴訟
2022/8/22

新型コロナウイルスの影響により、日本でも様々な給付金制度が打ち出されました。その中でも中小事業者やフリーランスを個人事業者を対象に給付された「持続化給付金」は代表的ともいえる策ではないでしょうか。

持続化給付金 コロナ禍しかしながら、この給付制度は、性風俗関連特殊営業(風営法2条5項)にあたる性風俗事業者(ソープランド、ファッションヘルス、ラブホテル、ストリップ劇場、デリバリーヘルスなど)は対象から外されていました。経営者・スタッフ側が外されている一方で、接客をしているキャストは個人事業主とみなされており、給付は行われています。


コロナ給付金訴訟 東京地裁が棄却

これをうけ、給付から除外された関西の性風俗店が、国に対しての訴訟を行いました。『「セックスワークにも給付金を」訴訟』。2020年9月23日、東京地方裁判所に提訴されたこの訴訟は、2022年6月30日に判決が言い渡されましたが、結果は敗訴でした。原告は即日控訴しています。

「限られた財源の国庫からの支出で、性風俗業の事業継続を下支えすることは相当ではない」との判断。

「性風俗事業者や従業員が個人として尊重され、平等な取り扱いを受けるべきことは当然で、職業に基づく差別が許容されるわけではない」としたものの、結果的には、職業によって給付対象から除外され得ることが明言されたように感じました。

今回の判決について、『「セックスワークにも給付金を」訴訟』の原告であるFU-KENさんにお話を伺いました。


司法の根本を揺るがすような「どこ調べなん?」という発言が多かった

――FU-KENさんの肩書きを言える範囲で教えてもらえますか?

「関西地方でデリヘル店を経営している30代の女性です。お店を始めて10年ほど経っています」

――判決への率直な感想を聞かせてください。

「判決理由で『大多数の国民が共有する性的道義観念に反し、国民の理解が得られない』と裁判所が言うということは、もはや裁判所の意味を成していませんよね。司法の役割を全く担(にな)っていない。

司法の根本を揺るがすような『どこ調べなん?』という発言が多かったように思います。風俗もラブホテルも利用者数が多いから産業として成り立っているわけで、その存在を国民が理解してないなんて、有り得ないですよ」

――数多くの事業の中から性風俗業だけが線引きされた理由としては納得できないと。

「あと『限られた財源の中で費用対効果や他の政策との整合性を考慮すべきで、公金支出に対する納税者の理解が得られるよう配慮することも許される』とありましたが、裁判の時点で相手側はそんな主張はしていませんでした。なのに、勝手に新しいものを持ち出して判決を出しているのもおかしいですよね。

ただ今回の問題は、コロナ禍というタイミングでないと『おかしい』と声を挙げられない部分もあったんですよね。これまでも少なからず、こうした差別のようなものは存在していましたが、普段の生活の中ではどうしても訴えづらいんですよ」


私たちもしっかりと納税をしている国民です

――例えば、どんな時に差別を感じますか?

「法人口座の申請に落ちたり、銀行からお金を借りられなかったり。事務所を登録する際にも場所を探すのも大変だし、金額も割高になっていることが多いんです。

けれど、私たちもしっかりと納税をしている国民です。同じ国民なのだからと言い続けた方がいいと思っています」

――同業者からの反応はありますか?

「業界でも色んな考え方があって、権利を主張すると国から目をつけられるからと迷惑がる人たちもいるんです。

 でも、今だってじゅうぶん目をつけられているわけで、声を挙げたところでそこは変わりません。給付の権利も当たり前にあるものですし、今回のような国からの差別や偏見は働く人たちみんなに関わってくるものですから」


「国は立川ホテル殺人の犯人と同じことをしている」

――差別や偏見の話でいうと、2021年6月には立川のラブホテルでデリヘル嬢とスタッフが殺傷された事件がありました。犯人は「風俗業の人間はいなくていい」と供述したとか。

「理由がはっきりある区別は当たり前ですけど、それがない区別は差別になります。でも、今回の判決で感じたこととして、国はこの犯人と同じことをしていると思ってます。

『いらんことをしない方がいい』なんて言ってると、国は偏見を巻き散らし続けるだけになりますよ」

裁判所――即日控訴もしたということで、今後も戦う姿勢なのですね。

「はい。風俗業界もこういう動きをするべき時代になっているんだと思います。訴訟を通じて『セックスワークisワーク』の意味が多くの人に伝わることを願います」

<文/もちづき千代子|女子SPA