所有物件がいつの間にか「メンズエステ」に使われていたら?
実態は「性風俗営業」のケースも、想定されるリスクと対応策は?
2022/9/1

「メンズエステ」というサービスをご存知でしょうか。

名前だけ見ると、普通のマッサージを行うリラクゼーションサロンのようにも思えますが、実態としては、女性が男性に性的サービスを行う営業、つまり性風俗営業であることも少なくありません。そしてこのようなメンズエステは、区分マンションの一室を使って営業しているケースが多いのです。

そのため、あなたが居住用のマンションとして貸し出している物件がメンズエステに使われていた、というケースも考えられます。そうした場合に、賃貸人サイド(管理会社を含む)としてはどのような対処ができるのでしょうか?

単純な用法違反(目的外使用)の話に思えるかもしれませんが、話はそれだけに止まりません。違法風俗が営業されていたという事実は、思いのほか物件全体に大きな影響を及ぼしかねないので注意が必要です。


貸主への影響は?

冒頭で述べたとおり、メンズエステの中には、性風俗営業を行っているものもあります。この場合、賃貸人にも許可を得ずに営業するわけですから、当然、公安委員会にも届け出ていません。したがって、無届けの違法風俗営業ということになります。

なお、「メンズエステ」という名前は比較的近年に流行りだしたものですが、このような居住用マンションにおける違法風俗営業の問題は昔からあります。

このような「メンズエステ」(違法風俗営業)の問題を放置しておくと、賃貸人サイドや物件自体に次のような悪影響が及びます。

1.他の部屋からのクレームあるいは退去

2.警察の捜査への対応など

3.事故物件化

まず1.他の部屋からのクレームあるいは退去ですが、業態的に夜~深夜にかけて男性客の出入りが多くなるわけですから、近隣からは非常に不審・不安がられます。結果的に、クレームはもちろん、他の部屋で退去者が出ることが考えられます。

次に2.警察の捜査への対応などですが、無届けでの営業や禁止場所での営業(メンズエステのような業態の性風俗営業は、現在ほとんど全ての場所で禁止されています)は風営法に規定する犯罪行為です。

したがって、営業主が警察に摘発されれば、賃貸人や管理会社も捜査に協力しなければなりません。また、報道されれば当然風評被害も生じます。

最後に3.事故物件化ですが、その部屋が事故物件となってしまう可能性があります。詳細は後述しますが、物件内で違法風俗営業が行われていたことが心理瑕疵とされる場合があるのです。そうなると、今後の賃貸や売却に大きな影響を与えることになりかねません。

以上のほか、その営業形態からすれば、通常の居住を前提とした給排水設備や床材などに問題が生じることも考えられます。

したがって、審査の段階でなるべくこのような違法風俗営業者の入居を防ぐべきことはもちろんですが、もし入居後に発覚した場合には、直ちに営業を止めさせて退去してもらう必要があります。


用法違反による契約解除は可能?

では、実際に違法風俗営業の事実が明らかになったらどうすべきなのでしょうか。賃貸人サイドがとるべき対応は、まずは賃貸借契約の解除です。

通常の賃貸借契約書では、用法違反(目的外使用)は解除事由として記載されているので問題ないでしょう。また、仮に契約書にそのような記載がなかったとしても、賃貸人は民法616条・594条1項により、賃貸借契約を解除することができます。

なお、契約の解除については、裁判例上は、契約違反があったとしても、軽微な違反であれば賃貸借契約は解除できないとされています。もっとも、居住用の目的なのに承諾なく性風俗営業をやっていたということであれば、過去の裁判例でも重大な違反(信頼関係の破壊)と評価されており、解除は認められています。

また、このケースでは家賃が支払われているかどうかは関係ありません。きちんと家賃が払われていても解除できます(なお、仮に賃借人が退去に応じなければ訴訟に進まざるを得ませんが、違法行為を行っているという後ろめたさもあってなのか、実際には任意での退去に応じる例が多いようです)。

もちろん、退去後は原状回復義務もしっかりと履行してもらいましょう。


事故物件化・心理瑕疵について

ただ、無事に退去させたとしても、それより深刻な問題が残る可能性があります。特に居住用のマンションでは「以前にその部屋で性風俗営業が行われていた」という事実は、場合によっては心理瑕疵として告知義務が生じるからです。

実際に、以前に違法風俗が行われていたマンションを、その事実を隠したまま、居住用として買い求めた夫婦に売ったという事案で、売主の瑕疵担保責任(現行法の契約不適合責任)に基づく損害賠償責任が認められたという裁判例があります。

この事例では、「本件居室が前入居者によって相当長期間(※6~7年間)にわたり性風俗特殊営業に使用されていたこと」が「瑕疵」に当たるとされました。

そのうえで、その事実を告げなかった売主は瑕疵担保責任(契約不適合責任)に基づき、仲介業者は説明義務違反による債務不履行に基づき、それぞれ損害賠償責任(連帯して100万円)を負うとされました。

いわば、この物件は「事故物件化」してしまったわけです。

このように、もし現在営業しているメンズエステを長期間放置してしまえば、あなたの物件も事故物件化してしまい、今後の賃貸や売却に支障が出てくる可能性があるのです。

なお、この点について、賃借人に損害賠償請求を行う余地はあるでしょう(賃借人が自殺してしまったケースと同様に考えられます)。

しかしながら、仮に賠償が認められるとしても、このようなケースでの賠償額の相場は不明確であり、被害がどの程度回復できるのかは未知数です。したがって、損害賠償請求はあまり現実的ではないかもしれません。


早期発見、早期対処が肝心

このような被害を防止するためには、事前の防止策としての入居審査はもちろん、早期発見・早期対応(契約の解除など)を行うことが肝心です。

とはいえ、入居審査で防ぐことにはどうしても限界があります。そこで、他の住民からの通報など入居後の状況にも目を配っておくことが肝要です。

くれぐれも、違法風俗の営業を疑わせるような通報を放置することなく、裏付け調査を怠ることのないようにしましょう。
(弁護士・関口郷思)

楽待 不動産投資新聞