公務員なのに夕方5時からが本番…税務署「夜の街担当」が見逃さない脱税風俗店の"閉店後の不審な動き"
2026/1/8

国税局の職員はどのようにして脱税を見抜いているのか。税理士で、元東京国税局職員の佐藤弘幸さんは「国税局の職員にもさまざま仕事があるが、繁華街を担当する『ハンカ』と呼ばれる部署では、夕方から朝方までキャバクラや風俗などを調査していた。特に風俗店は脱税を見抜くのが難しいが、閉店後のとある動きを追うことで実態を掴むことができる」という――。

■“夜の街”を担当する「ハンカ」

 さまざまな手法で脱税に関する情報を収集している国税局のなかで、もっとも情報収集能力の最も高いセクションが、課税部にある資料調査課、すなわち「コメ」だ。

 コメの現場が過酷なゆえに、配属される職員も税務署のなかでとりわけハードワークを強いられる特別管理部門(トクチョウ、税務署のなかで不正計算が想定される事案を担当)や繁華街・特定地域担当部門(ハンカ・トクチ、風俗などの現金商売担当)といった部署から這い上がるケースが多い。

 悪質事案の経験を積み、無予告調査に必要な機動力や洞察力に長けている者を即戦力として吸い上げているのだ。

 「ハンカ」は私も経験があるが、新宿、渋谷、銀座、新橋、横浜などの歓楽街を管轄する8つの税務署にのみ設置されている。飲食店や風俗店をターゲットとし、全件無予告で臨場する。無予告なので、当然、トラブルがつきものだ。

 コメの場合、国税局という看板があるので相手もしぶしぶではあっても折れやすいが、税務署となると、なめてかかられることも少なくない。入り口で揉めることが多く、それが調査官にとってはストレスになる。私の相方は、調査着手前に頻繁(ひんぱん)に下痢を起こしていた。

 調査を受ける側と同じように、調査をする側も極度の緊張を強いられるのが無予告調査なのだ。


■手ごわい相手が多い風俗店

 昼間も現場に足を運んで調査することはあるが、本番は夕方5時以降。私服に着替え、夜の街へと繰り出す。これがハンカの役割だ。

 1件目は飲食店や居酒屋を調査し、時間を見ながら風俗店に潜入、夜が更(ふ)けるとクラブ、スナック、キャバクラ、外国人パブなどを攻めるというのが基本的な流れだ。
夜中から朝までは、税務署の人間は内観調査になど来ないだろうと舐めているととんでもない。はやっている店舗については、閉店後の人や金の動きまで追跡するのだ。

 事前調査の段階では客を装って店に入ることもある。そうなると飲み食いしないわけにはいかないので、どうしても過食気味になる。太って尿酸値が上がるうえに、風俗店の場合は、運が悪いと性病をうつされることもある。文字どおり過酷な現場だ。

 なかでも風俗店は、手強い相手が多い。客として入ったり、店の前に張りついて入客数をカウントしないと、本当の売り上げが見えてこない。
たいていはどの女の子にどういうお客さんがついたかなどをリスト表にしているので、まずはそれを探す。

 また風俗店の場合は、売り上げをどこに持っていくかを見極める必要がある。税務署に提出しているような資料にはA社の誰々と書かれているが、本当のオーナーは違うことが多い。


■「オーナー事務所」を突き止めようとするが…

 店舗にいるのはほとんどが雇われ店長なので、閉店後に必ずキャッシュをどこかに持っていく。夜間金庫に入れる場合もあるが、それだと売り上げがわかってしまうので、オーナー直属の事務所に持ってこさせるのが一般的だ。

 その事務所がどこにあるかを把握するために後をつけるのだが、彼らが運転するクルマはベンツやクラウンが多く、馬力があるので、公用車でついていくのはなかなか難しい。苦労してようやくその事務所を突き止めても、証拠を隠滅されていることが多い。

 お互い、何十年という歴史のなかで調査したり、されたりの関係なので、向こうも隠すことにかけてはプロ。
しかも現金商売なので、隠されたら見つけるのは容易ではない。ハンカ勤務時代はかなりきつかったので、それがトラウマになっている。

 いまだに担当した地区の繁華街は歩きたくない。当時やり合った調査関係者に会うと、何をされるかわからないからだ。

 しかしこうした現場を経験していると、コメに行っても即戦力として活躍できる。8つの税務署のハンカを経験したなかから数人は、毎年必ずコメに上がってくる。
そういう厳しい現場で鍛えておかないと、コメでは即戦力として使えないのだ。トクチョウもしかりである。


■「コメ」になれば出世の道が開かれる

 そしてコメで活躍できれば、1年間で税務署での数年分以上の経験ができる。コメのノウハウは、賛否両論はともかく、国税職員に不可欠の技術だ。

 余談だが、ハンカにいると風俗店で使われている隠語についても詳しくなる。風俗店では客の数を「1本」「2本」と数えるが、これは何も性器のことを表しているわけではない。
昔の遊郭では、線香を立てて、それが燃え尽きるまでを客との行為に及ぶ時間とした。つまり、線香がタイマーの役割を果たしていたのだ。それを数えての「本」だったのだ。

 「バンス」なんて言葉もある。風俗嬢が店から前借りすることだが、英語の「アドバンス」が由来のようだ。どうでもいい話だが。

 国税局のエリートコースは、法人課税課などの主管課や総務・人事なのだが、現場業務でも出世の道がある。それがコメなのだ。
コメのプロパーになるには、3年以上の在籍が必要といわれる。プロパーになれれば、実査官→主査→総括主査→課長補佐→指定官職→資料調査課長という道が開かれる可能性がある。

 税法の勉強が苦手で、法律解釈を扱う審理畑は難しいとか、組織運営ができるようなキレものでない人間でも、調査現場で成果を上げれば、幹部登用への道が残されているのだ。
出世すれば、当然給料も上がる。コメにいれば出世できるかもしれない――。悪質納税者をただすという本来の目的は当然だが、一方で出世がコメの調査マンの原動力となっている。


■優等生よりも“一芸”のある職員が求められる

 一日当たり14時間以上も働くモチベーションは、コメにいれば勤務評定が高くなるということに尽きる。

 一般職員のスタートは誰もが税務署。成績を残していかないと、国税局や国税庁に上がることはできない。
大きな組織なので、当然、派閥はいろいろある。ただ東京国税局の場合は、組織が大きい分、捨てる神あれば拾う神もあり、干されても地道にやっていれば自分を拾ってくれる上司があらわれることもある。復活が可能なのだ。

 私にもそういう経験がある。ところが地方の国税局にはそれがないので、主流に乗れなければそれで終わってしまう。
30代も半ばを過ぎると、その後の人生が決まってしまうのだ。東京国税局は標準的な能力というよりも、特殊能力を買ってくれるところ。それがあれば、主流で生きていくことができる。

 競争が激しいので、平均点を取っているだけでは上に行けない。他人より抜きん出た能力がひとつふたつないと、人の上に立つことはできないのだ。


■「コメの女」も増えてきている

 約30年前、コメには女性実査官がほとんどいなかった。

 国税局員だけで調査チームを構成する課税第二部第三課に一人いたことがあるが、税務署との合同調査で署員を指揮する任務にあたる課税第二部第二課には一人もいなかった。
ところが、女性の社会進出を促す世の風潮の影響なのだろう。最近では、6人に1人くらいの割合で配置されている。一つの課に4〜5人程度の割合である。

 「お姉ちゃん人事」と揶揄(やゆ)されることもあるが、今ではコメの男以上にデキる「コメの女」もいる。コメの女は、コメをキャリアのひとつとして着実に出世していく。

 局内の出世のバロメーターである係長ポストに就く率は男性よりも高いといわれる。将来の幹部候補生であるのは間違いない。
Yahoo!ニュース


「コメ」の由来は以下の記事に詳しい。

「マルサより圧倒的に怖い」国税局最強部隊「コメ」の正体とは?松嶋菜々子ドラマ『おコメの女』の裏側
2026/1/8

1/8(木)にスタートする松嶋菜々子さん主演のドラマ『おコメの女』(テレビ朝日系)。
主人公が所属するのは、国税局の資料調査課をモデルにした架空の部署「雑国」。国税局資料調査課とはいったいどんな部署なのだろうか。
ドラマの監修も務める、元国税査察官・佐藤弘幸氏の著書『国税最強の精鋭部隊「コメ」』より資料調査課の実態を紹介する。


■「コメ」は国税局資料調査課の隠語

1987年に公開された映画『マルサの女』により、それまで国税の隠語で一般には知られていなかった「マルサ=国税局査察部」が公のものとなった。
国税の隠語には、名詞などの前に「マル」をつける習慣がある。代表者を指すときには「マルダイ」、対象者は「マルタイ」。で、査察は「マルサ」となるわけである。

ただ、マルサが知られるようになり、隠語は「6階」(大手町合同庁舎2号館の6階に査察部があった)、または「旧6階」とか「3階」(大手町合同庁舎3号館の3階に査察部があった)と変わった。現築地庁舎に移転してからは何と呼ばれているのか知らない。

国税局査察部は、国税通則法(旧国税犯則取締法の犯則手続きが編入された)に基づく調査で、裁判所の令状をもって強制調査を行う部署である。目的は、脱税者を塀の向こうに送るべく、検察庁に告発することである。

よって、査察官の存在意義は、脱税者のうち、できるだけ多くを捕捉し、調査を行い、告発することにある。
マルサの調査は、徹底した内偵により、脱税した所得の証拠(「タマリ」という)で「裏付けとなる資産を把握できた事件が対象」になる。

一方、「コメ」という部署は、国税局資料調査課の隠語である。マルサと違い、一般人にはまだ知られていない。

資料の「料」と調査課の「調」をとって「リョウチョウ」とも呼ばれているが、税理士などを含めた税務の分野ではすでに知られた言葉で、隠語としての価値はなくなった。それで、「料」の偏を指して「コメ」と呼ぶようになったのだ。


■マルサより圧倒的に怖い「コメ」

マルサという言葉は映画の影響ですっかり有名になってしまい、国税庁がホームページ上で普通に使用しているほどで、すでに隠語の役割を果たさなくなっている。

世間ではそのマルサが税務当局における最強部隊のように認識されているが、徴税に関してはコメのほうが圧倒的に怖い存在である。

コメは1週間に一事案を基本に調査を企画・実施しており、増差所得(調査によって把握した所得)、調査件数ともに、職員一人当たりの効果測定はコメが圧倒している。

マルサの調査事績は国税庁により公表されているが、2024年度に告発したのは全国で98件、脱税額82億円(本税及び加算税)。人員が約1300人とすると、一人当たり追徴税額は加算税を含めても630万円にすぎない。

コメの調査事績は税務署の調査事績のなかに混在しており、具体的な数字はベールに包まれているが、一人当たりの年間追徴税額は2000万円を下らないだろう。マルサの4倍以上と想像する。


■マルサは不正計算の裏付けがないと調査できない

マルサとコメとの大きな違いは、調査の性格にある。すなわち「強制調査」と「任意調査」の違いだ。

マルサは内偵の結果、「タマリ」と呼ばれる不正計算の裏付け(過少申告した利益に対応する預金、有価証券、不動産など)があった案件しか調査できない。

つまり、答えがわかっている案件しか調査できないのである。タマリがない状態で裁判をして、実は損金になるものが漏れていました、となると公判が維持できない。

起訴する案件は不正計算が一定規模以上であることが要件なので、後出しで損金となる証拠を差し引いたら一定規模未満になりましたという事案ではダメなのだ。検察官が受けない案件は、告発できないのである。

タマリがあれば、不正利益の裏付けがとれる。売上除外をしました、預金が同額あります、だから脱税したのは間違いありません、と。


■証拠がなくても動けるコメ

一方、納税者にとってコメが怖いのは、脱税の確実な証拠がなくても調査に着手する点だ。

各種マスコミなどの蓄積データ、申告データから「これはクサい」と思う案件を探し出して調査。無予告、つまり事前通告をせずにターゲットの会社や店舗などに踏み込むのだ。

加えて、能力やマンパワーの不足で税務署職員だけでは調査するのが困難な案件にも、果敢に挑む。コメのターゲットの特徴として、「大口」「悪質」「宗教」「政治家」「国際取引」「富裕層」といったキーワードが挙げられる。

コメは任意調査の最後の砦、いやマルサが手を出せない案件まで扱うことからいえば、税務調査の最後の砦ともいえる。したがって資料調査課は少数精鋭で、配属される職員には高い調査能力が求められる。

任意調査というと、踏み込まれた側は調査を拒否することもできそうだが、それは考えが甘い。ここでいう強制と任意の言葉の使い方は、あまり正確ではない。

マルサの「強制」は、国税通則法(旧国税犯則取締法)という法律に基づいて裁判所から令状を取るという後ろ盾があることによるが、コメは令状がなくても調査が可能。

しかも「任意調査」は強制調査に対する対義語なだけで、法律上は、納税者には質問に答えたり調査に応じなければならない受忍義務がある。


■調査官が持つ強力な「質問検査権」

コメは、国税通則法に定められている「質問検査権」という権限に基づいて調査する。質問や検査にあたって、相手方の「明示の承諾」があれば、書類やその他の物件を調査することができるのだ。

財政と治安は国の根幹であり、税収は財政にとって非常に重要なものである。調査を受けずにのらりくらりといなされては困るので、調査官が持つ質問検査権はかなり強力になっている。

拒否したり虚偽の回答をした場合には、拘禁1年以下などの罰則規定も定められている。
つまり、間接的に強制しているので、「間接強制調査」といわれる場合もある。任意という言葉尻をとらえて軽く考えている人もいるが、その点は気をつけておくべきだ。

質問検査証には、権利が及ぶ範囲が明記されている。たとえば京橋税務署と明記されていれば、京橋税務署の管轄しか調査はできない。

しかしコメは、東京国税局長が質問検査証を発行するので、すべての税務署の管轄エリアを調査できる権限を持っている。

税目についても同じだ。たとえば税務署の個人課税部門の場合、所得税調査が業務となるので、質問検査権は所得税法に関する調査に限定される。


■査察部と課税部の関係性

つまり、法人を直接調査することはできない。取引相手を調査する反面調査はできるが、その法人自体を調査対象にすることはできない。
ところがコメの場合は、全税目において調査できる権限を与えられているのだ。

強力な権限を持っているからと、過去にはデキの悪い実査官の横暴な調査のせいで、事件になったケースがある。
国民から負託された質問検査権の使い方には、十分気をつけてもらいたいものだ。

意外と思われるかもしれないが、税務職員は質問検査権の教育をきちんと受けていない。せいぜい研修資料が配布されたりする程度である。

私が以前にペアを組んだ若い事務官(財務事務官、国税調査官昇任前の若手職員)は、調査中、なんと社長の奥さんの財布を勝手に覗き込んでいた。

その場で平謝りして事なきを得たが、あってはならないことである。ゆとり教育の弊害なのか、最近の若者には平気でこうした常識外れの行為をする者が少なくない。

話を戻すと、調査の性質に違いはあるものの、コメとマルサは不正をただす部署として目指す方向は一緒であり、蜜月の仲でもある。

互いのノウハウを浸透させるべく、人事交流も行われている。査察部と課税部は、ギブ・アンド・テイクのような関係になっている。
Yahoo!ニュース



 


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