「あ、どうも はじめまして。マツモトです」

待合せに指定された池袋の喫茶店”銀座茶楼”に現れた男の、低くガサついた声を聞いて思わず振り返る。

濃紺のダブルスーツに高そうな時計、当時ヤクザとその愛人しか持っているのを見たことのないドコモの最新ムーバにパンチパーマ。日焼けした顔からギョロリと突き出た眼球はランランとしており、全身から自信が溢れ出ていた。

当時二十歳そこらだった俺は、その姿に圧倒されたことを気取られまいと、静かに目の前のコーヒーを眺めていた。

「ナカタニくんから聞いていると思いますが、シゴトを手伝ってくれる人を探してましてね。」

この男の一言が俺のこれからの人生を大きく揺り動かすことになろうとは、この時は想像だにしていなかった。

「新宿で超楽そうなバイト見つけたんだよねー。時給1200円だぜ」

丁度麻雀荘のアルバイトを辞めて暇を持て余していた俺に、ヨヨギが電話をかけて来た。

ヨヨギは麻雀荘のバイトをしていたときの客で、ロンゲでミカミヒロシ似のチーマー風大学生だ。
当時チョイ悪チンピラ風プチアウトローかメチャメチャださいオヤジと根暗学生しかいなかった麻雀荘連中で、唯一合コンやナンパやアメカジの話の出来る気の合う先輩だった。

「いや別に良いよ。金困ってないし」

「一人で働くの嫌なんじゃ。お前も俺と一緒なら楽しいじゃろう?」

なぜ関西の奴と広島の奴はかたくなに地元の方言を守り続けるんだろうか?
聴き取りにくい訛りも言ってる内容も理解不能だったが、ちょうどそのちょっと前にヨヨギに誘われたデジパチのモーニングゴロで10万円儲かったこともあり、
無下にも出来ないのと美味しいバイトの中身を覗き見たいという誘惑に負けて、2人で一緒に面接に行くことにした。

(2)に続く