ここで働くようになってから知ったことだったが、90年当時いわゆるモザイクありレンタルAVの会社が倒産し、そのモザイク処理前の無修正流出ものというのが出回り始め、渋谷や新宿ではそれをコピーして販売する”裏ビデオショップ”があちらこちらに出来ていた。

ざっくり言えば地場のヤクザのしのぎの一つで、ポーカー屋とか裏カジノなんかと並んで半グレ連中が手を出すものの中では最も低投資で始められるシノギだった。

店内にはポップとビデオ情報雑誌の切り抜きが貼られていて、ビデオ屋だけど一切ビデオは陳列されておらず、ポップには手書きで「きららかおり初流出もの A」とか「美穂由紀売れてます! AA」とか書かれていた。

さらに店内ではテレビデオから無修正のエロビデオが延々流されており、見知った女優が喘ぎ声をあげている。それをかき消すかのごとく何故かユーロビートの有線がけたたましく店頭で鳴り響いていた。

「いつから来れる?」

身分証も住所も確認せず、ポケベルの番号を交換しただけで面接は終了し、俺たちは無事即採用され、週末からシフトに入ることになった。俺が火木土でヨヨギが水金日。しばらくはオダが居てくれるとのことだった。
——

「すげぇ楽だったわ。ほぼ座ってるだけ、たまにお使い頼まれたり、ビデオをダビングしたり……でもたまに客がくるんじゃい。金曜の夜だったけぇ20万くらい売り上げあったで!」

初日を終えたヨヨギから電話がかかって来た。楽だったという朗報より18時から23時の5時間で20万売れたってことの方が気になって仕方なかった。

「おはようっす」

「あ、おはようー」

翌日出勤した俺をオダがけだるそうな声で出迎える。いわゆるチョイ悪チンピラファッション(ざっくりセーター&金ネックレスにジーンズとキャップ)だったのでパッと見は三十前後に見えたが、実際はもう少し若いかもしれない。

「基本的に仕事の内容は四つね。まず買い出し。ポップの用紙とかペンとかの文房具とかダビング用の空テープを必要な時に買って来る。んでポップとカタログ作り。エロ本の裏ビデオレビューのコーナーを切り取って店内に貼ったり、ポップを書いたり、じっくり選びたい人用にこのファイルにエロ本の切り抜きを入れてカタログを作る。次がダビング。元テープから空テープにこのデッキで擦る。それと接客ね。来た客が欲しいって言ってきたビデオを1本2万円で売る。」

何か気まずいことでも悟られまいとしているかのごとく一息に捲し立て、そして説明を終えた。

「んで今日はね。することほとんどないから適当に店先でも掃き掃除して、終わったらカタログとかポップとか眺めてて。」

さっき掃除なんていってなかったじゃねえかと思いつつ適当に掃き掃除を済ませ店内のポップを眺めていると、早速客がひとり入って来た。

(4)に続く