渋谷から山手線に乗り、池袋で降りる。
改札を出て西武デパートやパルコのある方、東口に向かった。東口が”西”武で西口が”東”武というのも、根っからの都会っ子ではない俺には気に食わなかった。
基本的に渋谷周辺が棲息地だったので、裏ビデオ屋のときの歌舞伎町の雰囲気にも若干面食らったが、池袋はそのどちらとも一風違った空気感のある街だった。
駅の出口を背にすると目の前には明治通りが横たわり、右手が目白方面 左手が大塚方面。明治通りは何となく山手線に平行しているので、その辺はすぐ理解できた。
明治通りを大塚方面に進んでいくと、パルコの角には交番がありその先にはビックカメラがある。ビックカメラ前の人だかりを通り抜けて少し歩いたビルの二階に指定の喫茶「銀座茶廊」はあった。
階段で二階にのぼると、30坪ほどのホールフロアにテーブル席やソファ席が並んでおり、俺は入口から真正面の窓側席を選んで着席した。
待合せの時間に少し遅れてマツモトがやってきた。
「あ、どうも はじめまして。マツモトです。」
電話越しに聞こえてきたあの声が背後から聞こえてきた。
マツモトは頭はパンチパーマ、色は浅黒く、ダブルのスーツにベルサーチのドレスシャツを着ていた。歳の頃は40くらいだろうか?
ただ、目だけはランランと光っており、自信をみなぎらせていた。
マツモトは窓際に携帯電話のアンテナを伸ばして置くと、俺の向かい側の席に座った。
「イメクラってわかるかな?」
「いや……ちょっと……わからないですね……」
「ヘルスはわかる?ファッションヘルス。」
「あぁ、それなら知ってます。風俗ですよね?」
「そう、フ・ウ・ゾ・ク。」
なぜか念を押すようにマツモトが言う。
「イメクラというのはイメージクラブの略で、ファッションヘルスでは味わえないシチュエーションプレイが楽しめる風俗店のことです。イ・メ・ク・ラ。」
何かの呪いをかけられたかのようにフウゾクとイメクラという単語がこびりついたように感じた。
「で、今池袋でイメクラをオープンさせるので手伝ってくれる人を探しているんですよ。」
マツモトの視線はピンで留めたかのように俺の顔に張りついたままだ。
「ナカタニさんから伺ってないかもしれませんが、ぼく学生なんで夕方からアルバイトという形なら出来なくもないですが……あの仕事の内容とか、お給料とかも聞かせてもらいたいんですが……」
「え?学生なの?ふうん。この業界アルバイトってあんまりメジャーじゃないんだけど……ということはビデオ屋のときも時給だったということですか?」
「はい、そうです。時給1200円で働いてました。」
給料が遅れがちだったということはとりあえず伏せておいた。こんな事すらも弱みになるんじゃないかと感じたからだ。
「同じ条件でいいですよ。店には責任者が別に一人いるから、やってほしいのはその人間のサポート。掃除や買い出しなんかの雑用。それから電話応対なんかの接客。タレントの管理は責任者がやるから。」
何だかわからないうちにやる方向で話が進んでいた。18時から23時の5時間で日給6000円。お店の開店日が決まったら連絡するということで、その場はおひらきとなった。
(2)に続く
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