「お店の社長さんを紹介するから池袋まで来てくれる?」
丁度1週間後にマツモトから電話があった。電話があるまでの1週間はサークルに引っかかった女子大生の相手ばかりしていた。
ヨヨギにこの新しいバイトの話をしたところ
「おいおいおい。君フーゾクくんになっちゃうの?俺はやんねぇよ。ていうかアツい仕事見つけたんじゃけど、お前もどうな?」
と違うバイトを勧められる始末だった。ちなみにヨヨギの見つけてきた新しい仕事というのは
”日焼けマシンの代理店”
”3台仕入れると代理店になれて、自分の下に代理店をつけるとマージンが永久にもらえる”
というねずみ講丸出しのヤバい系のヤツだった。一応説得を試みたが
「説明受けに行ったら、六本木のすげぇマンションに外車が何台も並んどったで!」
とまったく取りつく島もなかったのでヨヨギとは一旦距離を置くことにした。
指定された日に池袋東口から電話をすると、前回とは違った喫茶店に来るように言われた。
待合せの喫茶店「カフェテラス四季」は明治通りを六つ又交差点の手前の信号を左に入ったマンションの中二階にあった。
店内に入るとすでにマツモトと中年男が席について待っていた。
「お店の社長のナカハシさんです」
なぜかマツモトはこの中年男を”さんづけ”で紹介してきた。
「どどどどうも。な、ナカハシです」
六角精児に似たルックスのナカハシがどもりながら自己紹介する。鈍い俺でもこの男は単なる名義人だとすぐにわかった。
「お、お店は来週の月曜オープンだけど、開店準備とかもあるから明日からでも来てほしいんだけど……」
「大丈夫ですよ。終電までに解放されれば。明日は授業午前中までなんでそれ以降なら出れます」
「じ、じゃあ早速お店に案内するから。」
どもる上に滑舌が相当悪い。そしてマツモトとは対照的にナカハシはうだつの上がらなさが滲み出ていた。
エビスのことが頭をよぎる。俺の上司運が悪いのか?それともこの業界にはこんなんばっかりなのか?唯一の救いはマツモトの存在だった。
仕事場は四季と同じマンションの最上階にあった。表札には”オフィス1A”と書かれていた。
中に入ると玄関がありすぐ右手にトイレと兼用のユニットバス。その向こう側にキッチンのシンクがあり、パーテーションで仕切った部屋が3つあった。
奥の2つの部屋は5畳程度の広さでそれぞれベッドが置かれていた。手前の小さめの部屋にはソファーがおかれておりこれが待ち合いのようだ。
俺の知っている風俗店のイメージというのはピンサロとかファッションヘルスとかみたいな”お店然”としたもので、こういう住居型のマンションを改造したものを見るのは初めてだった。
(3)に続く
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